接続語の話―実践編(4/18現初-2)


前回は主に接続語についてお話ししましたが、今回はそれを踏まえて、少し長めの文章を読みました。

なおこの授業では主に高校新演習スタンダード 現代文Ⅰという教材を使っています。(塾用の教材なので一般販売はしてません。}

今日はその第一講基本問題、石城謙吉「森林と人間―ある都市近郊林の物語」からの出題です。

 

読解の実践―接続語補充問題の考え方

さすがに設問全部をこの記事で解説するのは大変なので、一部だけ紹介しましょう。それでもちょっと長くなりますが…下記の引用部を見てくださいね。

 まず、市民の休養の森にとっては、落葉広葉樹の明るい木陰は不可欠の要素である。常緑の森林は、針葉樹林であれ広葉樹林であれ、そこへ入る者に厳粛な気持ちと同時に陰鬱な気持ちも与えることが知られている。かつてシベリアのタイガの針葉樹林で獲物を追って一冬を過ごす狩猟者たちは、針葉樹林特有の陰鬱な気分を紛らす必需品として“麻酔茸”を携帯したということである。これに対して落葉広葉樹林は、その爽やかな明るさによって人の心を和ませ、生き生きとさせるだけでなく、さらに、これも休養緑地に不可欠な豊かな季節感を人に与える。

○A○、落葉広葉樹林のもう一つの特色は、針葉樹林とは比較にならない生物相の豊かさにある。落葉広葉樹林は、地球上の温帯地域における生物多様性の拠点である。

さて、Aに入る接続語を問う問題です。この部分、引用の初めから読んでいきましょう。

「列挙の形」に注目しましょう。

引用部冒頭に「まず」という語がありますね。これ、実は結構重要です。「まず・はじめに・第一に」などの言葉は「列挙」を作ります。「まず」とくれば当然、その後には「次に・さらに・あるいは、第二に」など、最初に挙げた要素と並べられる内容が来るはずですよね。場合によっては「第三に、第四に…」と、どんどん続いていく場合もあります。こういう「列挙の形」をちゃんととらえていくことは、整理して文章を理解していくのにとても役に立ちます

とりあえず「まず」の後ろに「①」と記しておきましょう。続きを読んでいけば「②」「③」が出てくるはずです。

「対義語」から読み取る「対比」の形

国語の勉強の中には「言語知識」というジャンルがあります。特に中学受験を経験したことのある人はよくご存じかと思いますが…「漢字の成り立ち」「同訓異字・同音異義語」「ことわざ・慣用句」とか、そういうやつですね。

こうした「知識問題」、読解問題と分離した単独の設問として登場することも多いのですが、一方でこれらの知識は当然ながら、読解力にも深くかかわってきます。

「読解力とのかかわり」という視点で見た場合、とりわけ重要な言語知識は「対義語」に関するものでしょう。

引用部を見てみます。第一文では「落葉広葉樹の明るい木陰」について説明していますが、それに対し第二文の冒頭には「常緑の森林は…」とあります。樹木についてある程度の知識を持っている方なら「落葉樹⇔常緑樹」という対義語関係は御存じかと思います。

こんなふうに文章の中で「対義語」のセットが使われた場合、前後の文章は対比的な説明になっている、と考えるのが読解のセオリーの一つです。引用部最初の段落では第一文と第四文が「落葉樹の森について」第二文、第三文が「常緑樹の森について」の説明になっていますね。

「落葉樹の森=明るくて人の心に安らぎをもたらす」⇔「常緑樹の森=暗くて陰鬱な気分を招く」

という対比の形をしっかり読み取っておきましょう。

おまけ:重要な対義語について

以下に挙げる語の対義語、わかりますか?

1.主観 2.絶対 3.具体 4.需要 5.一般 6.分析

それぞれ「1.客観 2.相対 3.抽象 4.供給 5.特殊 6.総合」(←ダブルクリックで見えます…か?}ですね。全部わかりましたか?

なお、対義語はあくまで「対になる語」です。「反対の意味の語」とは考えない方がいいでしょう。例えば「理想」の対義語は「現実」ですが…

「理想の恋人は美形で賢くてお金持ちで優しくて誠実な人!!」なのに「現実の恋人は不細工でお馬鹿で貧乏でロクデナシの浮気者」とかだったら悲しすぎるでしょう。

 

前後関係から、接続語を確定する

さて、話を戻します。いよいよ設問ですね。

二つ目の段落、空欄の後の記述は「落葉広葉樹林のもう一つの特色は…」はい!!この言葉!!「もう一つ」!!わかりますよね。わかりましたよね。「列挙」ですよ列挙!!「もう一つ」って言ってるんだから、これより前の部分で、なにか似たようなことを挙げてるに決まってます。で、それは何か…と考えれば…わかりますよねえ。さっきチェックしましたもんねえ。

そう!さっき「①」を振った内容「落葉広葉樹の明るい木陰…」っていうところです。

ここでは「落葉広葉樹の特色」としてまず「明るく人の心に安らぎをもたらす働き」をあげ、空欄Aの後でそれに並べて生物相の豊かさ」をあげています。

というわけで、空欄Aの語は同質のものを並べるはたらきをもつ「並列・添加」の接続詞(また、さらに、そしてetc…)であろう…ということがわかります。前回お話ししたとおり、「並列・添加」および「選択」の接続詞に関しては「何と何を並べているのか」並べているものの同質性はどういうものか」という二点をしっかりつかむ必要があるのです。もちろん今回みた「列挙」を示す形でもそれは同様です。

 

「わかる」ことを「ちゃんとわかる」

今回の記事では、400字にも満たない引用部について、ずいぶん詳しく解説しましたが…一方で「これくらいとっくにわかってる」あるいは「そんないちいち考えなくても、さっと読めばわかる」というふうに感じる方も多いと思います。

現代文の学習、というのは、例えば陸上競技の短距離走なんかに似ているところがある、と思っています。

ただ「走る」というだけなら…けがや病気でもなければ、特に練習しなくても「全然走れない」という人はほとんどいないでしょう。もちろんその中にはかなり速く走れる人もいれば、あまり上手に走れない人もいますけど。

ただ校庭で走り回っているるだけならそれでもいいでしょう。だけど何かの理由で「もっと速く走りたい」と思うことだってあるはずです。「将来はオリンピックに出たい」という夢を持つ人もいるでしょうし、「かけっこで毎回ビリなのはもう嫌だ!」という人も。

とにかく「今より速く走りたい」と思うなら…ただがむしゃらにひたすら走りこむ、というのも一つの方法ではありますが、それはあまり効率がよさそうにありません。(これまでだって、ただ走るだけならやってきたわけですしね}

そういう時はまず、自分の「走り」を見直してみるといいんです。できればビデオカメラなんかも使って。「走る」っていうのはどういうことか。走るとき、体はどんなふうに動いているのか。膝は?腕は?頭は?そういうのをちゃんと見直して、これまで無意識に体を動かしていた「走る」という動作をしっかり意識してみる。その上で、より速く走るために大切なことは何かを考える。「一歩をより大きく、膝をしっかり上げて」とか「スタートはできるだけ低い姿勢から飛び出す」とか…そうやって一つ一つの動作をチェックし、その精度を上げ、その上で繰り返し練習して動きを体に覚えこませていく…そんなふうにすることで「より速く」走ることができるようになるのです。

文章を読む練習もそれと同じなんですよ。「もっと読解力をつけたい」と思って、ただがむしゃらに、手当たり次第に本を読む、問題を解く…そういうことが「無駄だ」とまでは言いませんが、効率のいいやり方だとはとても思えない。

読解力をつけたいなら、まずは自分が当たり前のようにやってきた「読む」という作業を、しっかり見直すべきなんです。文章を読むとき、どういうことを考えているか、どこに注目しているか、なぜそう考えたのか…多くの場合無意識のうちに処理している「思考」について改めて見直し、自分なりに点検していく作業。「文章が読める」というのがどういうことなのか、そこに向き合っていく作業。そういうのが大切なんだと、僕は考えています。

 

さて、今日はここまでです。ではまた来週!

 

 


投稿者: 大森 太郎

升形国語塾の代表をやってます。

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